2003年3月11日火曜日

国際連合(United Nations)と連合国(United Nations)

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2003.3.11
イラク問題では日本は世界から無視された格好だ。誰も日本の首相の意見など聞きに来ないし、フランスのシラク大統領やド・ヴィルパン外相の国際社会における凄まじいまでの存在感と較べるとまことに影が薄い。中東は地理的に遠いといってもお隣の中国の意向は重視されるだからやりきれない。でもこれが現在の国際連合を中心とした国際秩序というものなのである。こと安全保障の問題となると常任理事国五カ国が圧倒的な発言力を有する。これは国際連合の設立の経緯から考えれば当たり前のことである。

以前ネットニュース(インターネットフォーラム)で、参加者のあまりに夜郎自大的な発言に辟易し今の「国際連合」とは戦争中の「連合国」の名前と実質を継承したものであり日本は身の程をわきまえろと述べたら、激烈な感情的反発を買ったことがある。デマだとまで言われた(HPに「靖国神社問題」としてスレッドを収録)。日本が連合国の手下になったなぞと言うことは「ニッポン・ナショナリスト」にとっては耐え難い屈辱であったらしい。でも1942年にローズベルトの提案により「連合国」を正式には「United Nations」と呼ぶこととなったこと、国際連合発足の際に「我ら連合国の人民」が「国際連合(United Nations)」を作ると宣言したことは、国連憲章にも書いてある通り歴史的事実である(国連憲章の書き出しは、WE THE PEOPLES OF THE UNITED NATIONS DETERMINED...で始まる)。連合国を「allied」と呼ぶのは通称に過ぎない。国連憲章には旧敵国条項もあるし、安保理の常任理事国は第二次大戦の戦勝国で構成されている。国連は今でも「悪の枢軸と戦う連合国」のままなのである。ところが日本では 「United Nations」の二つの意味を「連合国」と「国際連合」にうまく使い分けて和訳してしまったので、そのへんよく理解されていないようだ(ちなみに中国では国連のことを今でも「連合国」と呼んでいる)。これが日本人が国連は世界の国々が民主的に物事を決める機関であるとのある種の幻想を抱くことにつながっている。でもそのような「ナショナリスト」も今度のイラク問題をめぐる世界の動きを見てだんだん現実が分かってきているのではないか。いずれにせよあまり愉快な事実ではない。この国連(連合国)中心の世界秩序は当分続く。すくなくとも現在の国際連合で国際問題に対処できないとはっきりした時点でないと新しい仕組みの検討さえも開始できないだろう。

ところがここにきて「連合国」内部で新たな亀裂が生じ始めている。国連発足直後からイデオロギーの対立から連合国内部で対立が発生したのであるが、その対立が漸くソ連の崩壊で解消したと思ったら、今度はフランスとアングロサクソンの対立となった。アメリカに言わせれば我々がヒットラーから助けてやったのに何をフランスは生意気なことを言うかと言うところだろうが、フランスはド・ゴールのおかげで少なくとも形式的にはれっきとした戦勝国となったことは紛れもない事実であり、そんなこと言われても片腹痛いだろう。本稿を書いている時点では、まだアメリカは国連の新決議なしにイラクに攻め込むとははっきり言っていないが、フランスの拒否権発動は間違いないところであろう。展開次第では国連の権威と協調体制に相当傷つくことになるのは事実である。それが国連に替わる新しい国際秩序の枠組み作りに結びつくのであろうか。そういう期待をする人がいることは理解できるが、これまた非現実的だろう。米仏の対立はプラグマティズムの手法に関する対立といってもいい。背景には地政学的な利害の相違があるが、状況が変われば簡単に利害は一致するのだ。米仏関係はなにせアメリカ独立戦争の時代からの緊密な関係である。アングロサクソンとフランスの文化的近似性は表面的な違いにだけ目を奪われる日本人の想像以上のものだ。結局仲直りをするだろう。

朝鮮半島で有事が起こった場合も現在の安保理常任理事国の判断で物事が決まる。直接の当事者である日本と韓国の意見はアメリカと中国と通じてでないと表明できないのである。ドイツはこのような国際社会における己の立場を十分理解しておりフランス(欧州)に急接近することでフランスを通じた形ではあるが国際社会への発言力を確保した。ドイツはフランスとドイツの国籍を共有化することまで提案している。ドイツとしてはきわめて現実的な選択である。それに対し日本では未だに中国に対して感情的な敵意を露わにする人が多い。反米感情もある。日本が中国や韓国とドイツとフランスのような親密な関係を築くには一体何百年かかるのであろうか。昨今やたらに元気がいいいわゆる「ニッポン・ナショナリスト」は、中国やアメリカとの対立をあおり立てることで、逆に日本の国際的孤立化と小国化をめざしていると言っていい。現実をはっきり認識し、その上に立った建設的な思考が求められる。

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